否応なしに世界は変わる

 ――マインドパレスに篭もるという行為は、安全を確保した状態で行うべきである。
 なぜならその間、マインドパレスの所有者の意識は現実世界と切り離されてしまうからだ。声をかけられても気付くことができず、また時間さえ気にせず入り込むことができる。そうしている間に誰かに攻撃をされでもしたらひとたまりもない。気付いた時にはあの世行きである。
 そのため往々にして、マインドパレスの持ち主は“安全地帯”を設けていることが多い。
 たとえば、自室。
 たとえば、セキュリティに守られた執務室――といったような場所を。
 もちろんその場所でなければマインドパレスに入れない、というわけではない。ただ、自身の設定した安全地帯であるため、外部を気にすることなく長時間、記憶にアクセスすることができる。思い出に浸るもよし、仕事の資料を見返すもよし、他人の不幸を嘲笑うもよし――何を見るかは人それぞれだが。
 つまりマインドパレスの所有者たちにとって、マインドパレスに篭もる姿を見せるという行為は、それそのものが信頼の証ともいえる。
 完全に無防備な姿をさらしても問題はない、自身に害を加えることはない――そういった確信をもつことができない相手に、彼らがその姿を見せることはないのだ。

「……そのはずだったんだがね」

 マインドパレスに篭もる“アイスマン”を前に、恐喝王は溜め息をつく。

「いったいどうして、私たちはこんな甘ったるい関係になってしまったのかな?」

 問われた“アイスマン”は、やはりマインドパレスからは出てこなかった。――無防備にも。


否応なしに世界は変わる【完】